電脳千句第7 賦何水百韻 通し 2016.10.24~2017.11.6

1折表
秋風や雲うち払ひ山尖る 楽歳
つるぎを照らす月はいざよひ 羽衣
文机にすすきひともと置かれゐて 路花
近づく冬の足音をきく 夢梯
ゆるらかに磯わたりゆく田鶴のこゑ 蘭舎
水棹のしづく散らす潮々 千草
つぶれ石並べて遊ぶ子らの居り 遊香
明けて涼しきるり色の空 梢風
1折裏
大路ゆく網代車の物見窓 朝姫
揺るるがままに夢のあとさき 如月
契りきや花の舞ひ込む去年の里 衣
思ひ募れば陽炎の燃ゆ 歳
やはらかな牧を駆けゆく春の駒 梯
萌黄匂の裾のゆらぎて 花
折節はこころなきみも目を細め 草
霧のしじまに盃を受く 舎
かたわれの月を迎ふる高館に 風
鳴くを忘れし虫のひと籠 香
尼削ぎのみ髪傾げてをさな顔 月
あな麗しき水茎のあと 姫
濃く薄く心のうちをうつしける 歳
つがはぬ鴛鴦をしのぶ独り寝 衣
2折表
憂きことの重なるあした霜白く 花
心づよきは老いの方人(かたうど) 梯
此の山を越えば信濃のつかまの湯 舎
み寺のいらか若葉がくれに 草
連れ立ちてつつましげなる蝸牛 香
たはむれせんと生れ出づる世 風
たらちねの母の刺し子の麻の葉も 姫
片時去らず想ふよすがに 月
鮎落ちて京(みやこ)に近き皿の上 衣
訪ふ里の鶉鳴く宿 歳
琵琶の音に誘はれ仰ぐのちの月 梯
揺らす人なき柴の戸の揺れ 花
うつし世にかなはぬ恋と知りながら 草
なみだの川に架かる継ぎ橋 舎
2折裏
くたびれて寝ぬる合間を夕さりぬ 風
事あり顔を見るも見ざるも 香
まほらまの山辺のみち鐘かすみ 月
水温むころ旅立ちし人 姫
墨染めに花のひとひら舞ひおちて 歳
夢のまにまに蝶のたはぶれ 衣
髪さげし乙女子の声はんなりと 花
撫で育てしを奪ひゆくきみ 梯
常夏にたゞ隔てじと慣へども 舎
あけやすき夜の月はいづちに 草
ひたひたと山の魑魅(すだま)の近づくや 香
いをなどを食ふ者のすさまじ 風
外つ國の銀(しろがね)の匙磨きつつ 姫
閼伽水汲める古渡りの椀(まり) 月
3折表
微かなるいくさの声は風に乗り 衣
ひとのこころのやみのふかさよ 歳
やがてみな西の涯へと往くものを 梯
こゑも細りし冬の蚊なれば 花
黒髪の冷たく重く寝もやらで 草
ぬば玉の夜の衣返しつ 舎
うたてしと起きて来る子のしらみぐさ 風
秋のいで湯に流すしがらみ 香
産土神の千木に遊べる昼の月 月
かそけき音は光より生(あ)れ 姫
歌よみのあづま下りのつらねうた 歳
僅か濁れるもてなしの酒 衣
厨には菜を切る音のよくひびき 花
手毬つく子のすがた優しく 梯
3折裏
遠山に東風のたよりのとどくらん 舎
おびただしくも青柳の糸 草
すいすいと飛べる燕のうらやまし 香
などて翁は籠を作るや 風
忘れ得ぬ薫り残りし玉手箱 姫
ほのと紅色てのひらの貝 月
しらじらと明くる月夜のかたみとは 衣
またの逢瀬を契る七夕 歳
ひとり居の宿に侘しき遠砧 梯
やすらふうちに時は過ぎ行き 歳
物語書きはじめむと紙と筆 草
あくがれあかす花のあだし野 舎
みやこより流行り始める春着あり 風
鄙の弥生に何ぞ求めむ 香
4折表
引鶴に絡繰り唐子逆立し 月
かいやぐら消え雲の棚引く 姫
この浦に今朝も小舟で漕ぎ出でて 歳
糸たぐり寄す罪ぞかなしき 衣
なにゆゑか雑魚の命もいとほしく 花
しはぶきひとつ冬空の下 梯
凩の吹くもふかぬもうき名にて 舎
ただ身すがらに慕ひ来ぬれば 草
いくたびの闇をくぐりて秋の月 歳
まつりごとには稲の穂をつみ 風
小牡鹿の声聞く里の直会に 姫
色なき風のわたる平城山 月
いにしへを知るは樟ばかりなり 衣
位捨つれば人も問ひ来ず 歳
4折裏
冠や裃要らぬ嬉しさよ 梯
さても今宵は箏(こと)など聞きに 花
つつがなく帰りきませと門口に 草
なごりの雲の行くもすずしき 舎
湧く水に胸の透きゆく時を得て 風
かづらの橋を揺らす春風 香
咲き満つる神代の花のめでたさに 月
日のあたたかく鶯の声 姫
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